目次
- コーチング・セッションは未来を描く時間
- 二つの「リアリティ」
- 臨場感とホメオスタシス
- 心から望む未来をリアリティにする
- 最後は臨場感が物を言う
コーチング・セッションは未来を描く時間
コーチング・セッションのほとんどの時間は、クライアントが自分の未来についての話をします。話している間に、ぼんやりしていた未来が所々ではあるものの鮮明になって来ます。
これは、元々コーチングが意図していることです。
クライアントの未来は、まだこの世には実現していないのだけれど、セッションの間はあたかもそれがリアルであるかのように取り扱う。このようにセッション中の対話はとても未来思考です。
では、なぜコーチはクライアントが未来思考でゴールの世界を描くよう促すのでしょうか?
二つの「リアリティ」
その理由を「リアリティ」というキーワードから紐解いてみましょう。
認知科学がこの世に登場する以前の行動主義の時代には、リアリティというのはこの物理的な現実世界のことを意味していました。ところが認知科学の研究が進んだ今では、物理空間に限らず、情報空間(心理的な空間≒頭の中でイメージする空間)であっても、脳はそこに臨場感を感じれば、物理空間と変わらずリアリティだと認識していることが分かりました。
この考えを、現代社会に生きる私たちはそれほど抵抗なく受け入れることができるのではないでしょうか?
最近は映像モニターの画質も上がり、バーチャルリアリティ(VR)も普及して来ているので、仮想世界なのか現実世界なのかの区別がつかないくらいに仮想空間(=情報空間)に臨場感を感じることができる機会が増えました。特にゲームに没入している子どもや大人を観察すると、彼らにとってはゲームの世界が完全にリアリティとなっていると言っても、納得する人がほとんどでしょう。
情報空間に対しても人は臨場感を感じることが出来て、それがリアリティだと認識できるということは分かりました。それでは臨場感とは一体何でしょうか?
臨場感とホメオスタシス
人には自分の生体と周囲の環境との間で双方向にフィードバック関係を持ち、生体が一定の状態を保とうとする働きが備わっています。その働きをホメオスタシス(恒常性維持機能)と言います。
例えば生体は外気の温度変化に対しては、寒ければ震えて熱を発して体温が下がらないように、暑ければ汗をかいて体温が上がらないようにと働きます。このように生体は生命を出来るだけ安定して維持していけるように、自分がいる環境に対して常に情報をやり取りして変化に対応しようとします。
そして臨場感というのは、ある空間に対してホメオスタシスが働いている状態のことです。
心から望む未来をリアリティにする
さて、冒頭で私は物理空間でも情報空間でもそこに臨場感を感じればどちらもリアリティだと言いました。そうだとすれば、こう言い換えることができます。物理空間でも情報空間でも、ホメオスタシスが働いていればそれはリアリティだと。
実は、人は脳の中で高度な思考を司る前頭前野が発達したおかげで、頭の中で想像する情報空間に対してもホメオスタシスが働くように進化しました。
では、それがコーチングにどのように関係してくるのでしょうか?
コーチングのセッションの中でクライアントに自分の未来について話してもらうと言いましたが、その未来は現状の外側にある未来です。もう少し細かく言うと、現状の外側にゴールを設定して、そのゴールを達成した時の自己イメージと自分がいるコンフォートゾーンをクライアントがビジュアライズ(映像化)した世界です(ゴール設定についての詳細は別の機会にお話しします)。
さらに、ただ単に自分が心から望む未来をビジュアライズするだけではなく、その時に感じているポジティブな感情も一緒に体感してもらいます。
これは何をしているのかと言うと、クライアントがビジュアライズするゴール側にある未来の情報空間にホメオスタシスが働くことによって高い臨場感を感じて、それが脳にとってのリアリティになるようにしているのです。
最後は臨場感が物を言う
ただし、これだけでは本当の意味でゴールの世界がリアリティにはなりません。
脳は意味のあるまとまり(ゲシュタルト)を同時に二つ維持することはできません。今いる物理空間と頭の中に作り上げた仮想の情報空間の二つがある場合、両方を同時にリアリティと認識することはできないのです。
そこでどちらが本当のリアリティなのかを決めるのが臨場感です。より臨場感が高い方が最終的にあなたにとってのリアリティになります。
そして、あなたの脳がゴール世界をリアリティと認識すると、今の現実の自分とのギャップを無意識が感じ取ります。
すると、そのギャップを埋めようと無意識が創造的に働いてゴールの方へと連れていってくれる、これがコーチングが効く理由なのです。